あなたの話はなぜ「通じない」のかを読んだ
ある記事で「あなたの話はなぜ通じないか」(ちくま文庫)が絶賛されてた。ここしばらく、卒論の執筆等で「伝わる日本語」を書く・話すことの難しさに悩んでいたこともあり記事を読み終わった後即購入(kindle版がおよそ500円と破格の安さで買えたというのもある)。卒論を書き終わって余裕ができたので2、3日で一気に読んだ。
- 作者:山田 ズーニー
- 発売日: 2006/12/01
- メディア: 文庫
で結論から言うと、非常に素晴らしい本だった。就職を目前に控える今、この本が読めて心底良かったと思っている。恐らく今後の人生で何度か読み返すことになるだろう。
この手の本にありがちなのは、小手先だけのテクニックをひたすらに紹介すること。「理科系の作文技術」、「数学文章作法」に代表されるような文書執筆のハウツー本等ならそれでもよいが、会話はそうはいかない。個人的な考えではあるが、目の前にいる相手に対して小手先だけのテクニックを使って物事を伝えては、相手を思う通りに動かしてやろうという浅ましさが前面に出てしまい、相手に伝えたいことを伝えられないどころか、嫌悪感を与えてしまいかねない。
本書では、作者の実体験に基づいた、物事を伝えるために必要となる心構え・考え方を丁寧に説明し、その後で「伝わる」会話のテクニックを教えてくれる。そのため本書を通じて小手先だけのテクニックではなく、血の通った、相手に嫌悪感を与えないような会話術を得ることができる。
メディア力こそ話が通じる一番の基礎
本書で一貫して言われていることは、「自分のメディア力を上げる」ことこそが話が通じる一番の基礎であるということ。その例として……
ついに宇宙とコンタクト(日本経済新聞)
ついに宇宙とコンタクト(東京スポーツ)
いかがだろうか?右の二つは同じことを言っている。でも違う意味にみえてしまう。
―『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
本書冒頭より引用。こう明快で面白い例を出されると「ちょっとこの本を読んでみるか」と思わされてしまう。
「メディア力を高める」というと、今の時代だとSNSで数万以上のフォロワーがいる、相当以上の稼ぎがある……などが思い浮かぶ。しかし本書で言うところの「メディア力を高める」とはそういうことではない。
自分の聞いてもらいたいことを聞いてもらえるメディアになる。
「メディア力を高める」とは、そういう意味だ。少し引いた目で、外から見た自分をとらえ、それを「こう見てほしい」という自分の実像に近づけていくことだ。
―『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
SNS全盛の時代、実際の自分以上に自分を良く見せようと見栄を張ったりしがちである(もちろん私自身も)。見栄を張っていると、外から見た相手があなたに抱く期待値は実際以上のものとなり、結果それ以下のパフォーマンスしか出せないあなたは幻滅されてしまう。
見栄を張らず、等身大の自分を相手に見せていれば、相手はあなたに過度な期待はしなくなる。相手の期待に沿うパフォーマンスを発揮できれば、あなたへの信頼は高まり、新たな仕事を貰える。これを繰り返していけば、「あの人なら間違いない」と思ってもらえ、自然とあなたの発言の影響力は強くしていける。
ただし、ただ仕事を黙々とこなせばよいわけではない。周囲からみて、あなたがどう仕事をしているのか見えていなければ、周りは憶測であなたの仕事を評価してしまう。
伝えなきゃ、伝わらない。
―『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
周りに自分を正当に評価してもらうには、自己発信が不可欠だ。あなたの仕事ぶりを理解してくれている人は、あなたの発言・意見に真摯に耳を傾けてくれる。
この話は私に非常に刺さった。就職を目前に控える今、この後会社の戦力になれるのかどうか不安になっている。この不安を紛らわすために、実際には出来ないことを「出来る」と見栄を張っていたことは否定できない。それでは後々、自己評価と他者からの評価、出来ることとやりたいことの乖離に苦しめられることに気づけた。焦ることなく、見栄を張らず、やれることを少しずつ広くしていけるようにしていきたいと思う。
「問い」を鍵に物事を考える
自問自答を粘り強く繰り返すと、いずれ「あ、そうか!」という発見、つまり「意見」を見つけることが出来る。これこそが考えるという作業なのである、と本書では解説している。5W1Hを意識して、ちょっと頑張れば手が届きそうな「問い」をいくつも洗い出せば、問題をほぐしていける。
こうした「問い」を鍵にした「考える」テクニックとして、自分にインタビューするように考えを進める、という手法を提案している。インタビューは「問い」を投げる順番や構成を工夫しなければならない。いい「問い」を見つけるための考え方や訓練方法は第二章で色々挙げられている。
正論の難しさ
正論を拒むのは、人間の本能かもしれないと私は思うようになった。正論は強い、正論には反論できない、正論は人を支配し、傷つける。人に何か正しいことを教えようとするなら、「どういう関係性の中を言うか?」を考え抜くことだ。それは、
正論を言うとき、自分の目線は、必ず相手より高くなっているからだ。
― 『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
最近私は、間違っていることをキツめの言葉で指摘することが多い。幸いなことに、それが原因で人間関係がこじれたということはないが、新生活を始めるにあたって、このままでは良くないことに気付かされた。
信頼関係を築けていない人から、上から目線で指摘されるのは不快なことだ。こちらの都合を全く無視した正論は相手の心を打つことはない。
「共感」を入り口とした意見・コミュニケーションは、正論と比べてずっと相手の感情に届く。「共感」とは、相手と同じ目線で物事を捉えるということ。同じ問題意識を持ち、同じような責任感を持ってくれる人との間で生まれる連帯感は、意見を伝えることに大いに役立つ。
今後正論を言いたくなるときは、一呼吸おいて、「なぜ」相手はそう考えるに至ったのか、冷静に考えるようにしたいと思う。また、自身の意見を言う際には、相手を傷つけることなく、さりとて、嘘やごまかしはせずに言い回し等を工夫して伝えるようにしていきたい。
まとめ
研究室生活を送る中、教授には「プレゼンはとにかく認知負荷を下げろ」と言われ続けてきた。本書を通じてその言葉の真に意味するところがわかった気がする。認知負荷の高いプレゼンは、そのデザイン・レイアウトが良くないだけでなく、プレゼンしたい内容についての自問自答が不足していて、それを相手に理解してもらえるほど自分が理解していないのだ。このようなプレゼンを続けていては、自身の信頼、本書で言うところの「メディア力」は欠損していく一方だ。本書で学んだ相手に伝える技術と、それを鍛えるトレーニング方法を実践して、自分の言いたいことを嘘偽りなく、素直に相手に伝えられるようにしていきたい。